jsno38@convex.co.jp
 
 
 
第38回日本脳腫瘍学会学術集会
会長 杉山 一彦
(広島大学病院 がん化学療法科教授)
 
 このたびは第38回日本脳腫瘍学会学術集会を広島の地で開催できることを大変光栄に存じます。広島大学病院がん化学療法科として全力で取り組みますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
 日本脳腫瘍学会は米国のアシュロマカンファレンスを基にして、一会場で昼は1つのプレナリ−セッションのみ、夕食後はポスターセッションで脳腫瘍に関する研究や臨床知見を徹底的に討論するという形式を踏襲しております。1980年に第一回「日光脳腫瘍カンファレンス」が開催され、1992年からは「脳腫瘍カンファレンス」と、2002年からは「日本脳腫瘍学会」と名称は変更になったものの、「全員で徹底的に討論する」という会のスタイルは見事に継続されております。一点今回は脳神経外科医だけでなく、腫瘍内科医、放射線治療医、小児科医、病理医等の幅広い領域の医師や薬剤師、看護師、心理士、遺伝カウンセラー等のメディカルスタッフも脳腫瘍研究・臨床に興味を持っていただけるよう、参加への敷居を低くする意味で、宿泊施設を限定すること無く学術集会を計画いたしました。そのため広島市中心にあるリーガロイヤルホテル広島での開催としました次第です。
 主題は「Neuro-oncology OnとOff」です。これは現在のMedical Oncologyの主題のひとつが「Off-targetsの克服」であることからヒントを得たものです。On-targetsは分子標的薬の作用としてのメインシグナル阻害であり、腫瘍縮小・全生存期間の延長につながります。Off-targetsとは分子標的薬のadverse eventsの原因であり、EGFR阻害薬の皮膚症状、免疫チェックポイント阻害薬の自己免疫疾患様症状などを意味し、Off-targetsを如何に予防・関知し、管理するかが現在、治療を完遂する重要なポイントとなっております。第38回学術集会では従来のOn部門としての新薬開発の上市例や意図した実験結果、がんゲノムプロファイリング検査の成功経験、high-volume centerの治療成績、希少疾患の迅速な診断と適切な治療をご発表頂きます。また、それと同等にOff部門としての脳腫瘍経験者の詳細な観察と改善点の提示、新規薬剤の使用時の注意点、意図しない実験結果の解釈、がんゲノムプロファイリング検査の問題点、等も十分にご討議いただくよう計画致します。また、専門化した医療者にとって視点の変更にお役立ていただきたく、他癌腫の開発歴史や文化講演も企画いたしました。短時間ではありますが、全面改装された広島平和記念資料館への散策もプログラムに組み入れる予定です。
 新型コロナウイルスの世界的感染拡大に伴い、海外からの招待演者を現時点でご紹介できないのは大変残念ではございますが、数名の招待を計画しております。Neuro-oncologyの将来展望、中枢神経系悪性リンパ腫、小児脳腫瘍治療の米国での方向性、WHO2016に基づく小児脳腫瘍診断の実際と問題点、などについてご講演いただく予定です。
 国内からは近畿大学医学研究科呼吸器外科部門 光冨徹哉先生(非小細胞肺癌)、京都大学医学研究科乳腺外科学 戸井雅和先生(乳癌)、国立がんセンター東病院消化器内科医長 吉野孝之先生(大腸癌)のお三方に当該部門の世界的な動向と日本の立ち位置ついてご講演頂きます。研究・臨床の最先端を走る3先生のお話から脳腫瘍の新たな研究・治療の方向性を見いだすことができると確信しております。
 プレナリーセッションの候補題目として、脳腫瘍とがんゲノムプロファイリング検査、膠芽腫の治療成績、中枢神経系悪性リンパ腫について、小児脳腫瘍経験者の晩期障害を改善するため今何ができるか、脳腫瘍の放射線治療について、等を考慮しております。これらに関係した一般演題を募集・採択し、Key-Note Lectureも本会会員の先生方を中心にご依頼する予定です。また、第37回学術集会で永根会長が創始されましたTop Scoring Abstract(TAS)も継続し、優れた演題を “Rising-Sun Session”としてまとめようと考えております。さらには、英文抄録を広く公募、” Neuro-Oncology Advance(NOA)”に掲載することも積極的に行う予定です。
 文化講演として歴史作家 伊藤潤先生をお招きいたします。伊藤先生は戦国時代、特に伊勢新九郎(北条早雲)と嚆矢とする後北条に関する歴史小説を多く執筆され、城郭の研究家としても有名な方です。戦国武将が攻城戦で何を考え、攻め・守ったかをお話しいただきます。ポスター発表は従前の発表形式と変化ございませんが、広島・島根のワイン、日本酒、チーズをそろえて皆様の討論の触媒にしていただこうと計画しております。
 初冬の広島で皆様をお待ち申し上げます。

2020年4月吉日